就農者、後継者問題をはじめ多くの課題を抱えている日本の農業。山積する課題解決のため、農家の方だけでなく行政や民間企業もさまざまな取り組みを進めています。農業が盛んな宮崎県にある『AGRIST株式会社』もそんな企業のひとつです。この会社が新しく開発しているのが「キュウリの収穫ロボット」です。自動で収穫を行うだけでなく、採れ頃のキュウリをAIが判別して、熟れたキュウリだけを選別してくれるのだそうです。ロボットの開発に携わったエンジニアの想いを聞きました。
「キュウリ収穫ロボット」とは?
キュウリ収穫ロボットは、それ以前に開発された「ピーマン収穫ロボット」で培った技術を応用し開発されたのだそうです。このロボットは1本100グラム以上に育ったキュウリをより多く収穫するために、安定性の高いレール走行式で移動します。また、ロボットに搭載されたカメラから作物を認識し、AIが大きさを判断し収穫動作を行います。収穫ハンドには吸引タイプの収穫ハンドを採用し、栽培環境や作物を傷つけずに収獲する機能を搭載しています。
今後は、収穫の際に使用するカメラを用いて、農作物の状態をモニタリングしながら巡回することで、今まで人の勘や経験に頼っていた部分を可視化し、再現可能な農業を実現するとしています。
「キュウリ収穫ロボット」の主な機能
レール走行式で転倒せず安定して移動可能
AIにより収穫適期のキュウリを画像から検出
独自開発の収穫ハンドでキュウリを傷つけず収穫
平均約2分間に1~3個を収穫可能
キュウリをハンド部で吸着し、吸着できた場合のみ掴みながらはさみで果柄(かへい=枝と果実を結ぶ部分)をカット
オンライン環境を整えることで遠隔操作でも収穫が可能
収穫閾値、収穫サイズも設定可能
連続稼働時間は約10時間
運用と効率化の最適解で農業の質と効率を向上させる
「キュウリ収穫ロボット」設計開発リーダー 増渕武(ますぶちたける)さん
9月からビニールハウス事業を展開する企業でキュウリ収穫ロボットを導入してもらっています。開発者として、まずは大きな問題も無くロボットが動き続けていることにホッとしています。
また、圃場で実際にロボットがキュウリを収穫している姿を見ると、ようやく最初の一歩が踏み出せたなと感じています。収穫ロボットは収穫の手助けになるだけではなく、データの収集や遠隔地から圃場内の見回り等、ロボットの導入によって実現できることは多岐にわたり、農業の質と効率を大きく向上させることが出来ます。一方で、人とロボットが共に作業を進める上で、どのように運用すれば最も効率が良いのかといった運用面での課題も存在します。
今後も実際の圃場でのロボット運用を通して、人とロボットにとってそれぞれ最適な形を模索し、人とロボットが協働する新たな農業の形を創り上げていければと思っております。
「キュウリ収穫ロボット」プロダクトリーダー兼テックリード清水秀樹(しみずひでき)さん
9月からキュウリ収穫ロボットを導入致しました。実証実験を行っていたころから、収穫性能や収穫スピードを大きく向上させ、さらに1回の充電で10時間動かすことが可能です。さらにこのロボットは収穫だけでなく、Microsoft azureを活用したデータの蓄積基盤との連携も可能とし、スマホを活用しながら日々の収穫データを可視化分析することができます。
ここまでの道のりは決して簡単ではありませんでした。開発期間は約2年間で、何度も思考錯誤を加え作り変えること3回目で、ようやく世に出せるレベルになりました。
現在の収穫率は40%以上です。この数字を見て少ないと感じられた方も少なからずいらっしゃると思いますが、収穫ロボット開発の分野では、かなり高い収穫率を誇っています。今後はこの数字をさらに60%ぐらいまでこれからの1年で練り上げていきたいと考えていおります。また、日中のハウスの暑い中で人の代わりに収穫することや夜中の収穫にも使っていただけるように、さまざまな提案を今後も行っていきたいと考えています。
キュウリ収穫ロボットは、人の変わりになるロボットではなく、人と共存できる形で世の中に提案していきたいと考えています。今後も、より良い収穫ロボットの開発に取り組んでいきたいですね。