福岡県・大木町にできたくつろぎの場所。地域を潤す「たみえる珈琲」の癒し

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福岡県・筑後地方の南部に位置する農村地帯の小さな町に、自家焙煎のコーヒーショップ「たみえる珈琲店」が2023年6月18日にオープンした。この大木町の人口は約1万4000人。北は久留米市、南は柳川市、東は筑後市・八女市、西は大川市に隣接するこれらのベッドタウンでもあるが、主要産業は米・麦・大豆を主体とした農業に加え、近年ではイチゴ(あまおう)、アスパラガス、きのこの産地として知られている。町では子育てに力をいれているせいか、若い世代も移り住んできている。 

メニューは自家焙煎の深煎りコーヒー(ホット・アイスとも500円、持ち帰りはともに400円)と梅ジュース(400円)、スイーツは店主の西川さん手づくりの「昭和のプリン」(350円)と、シフォンケーキ(300円)。シフォンケーキは「できるだけ地元の得意分野を活かしたいから」と、近所に住む女性に焼いてもらっている。 

最近では「サードウェーブ」といって浅煎りでフルーティーな酸味を楽しむコーヒーが流行しているけれども、あえてその波には乗らず、コーヒーの奥深さを味わってもらいたいからと中深煎りから深煎りにこだわっている。あえて“サード”という用語にこだわるならむしろ「たみえる」を「サードプレイス」として機能させることだろう。いわゆる、家でも学校や職場でもない第3の場所。ここはそんな“地域の居場所づくり”を目指している。

店主お気に入りの小物が並ぶカウンター。

だから店舗となった古民家の改装にあたっては、欄間、天井板、中庭など、できるだけ“当時の”面影を残すようにした。移設費用の面で残さざるを得なかった民芸調の掘りごたつも、かえってそうした面影を偲ばせるのに役立つ結果となった。 

珈琲を味わうだけでなく、中庭を借景に読書を楽しむこともできる。

「このテーブルに利先生(オーナーご夫妻のご主人である古賀利一さんの父)と奥さんが二人座って、よーく庭を眺めとんしゃった(眺めていらっしゃった)」

この家のことを知る近所の人たちは、店内に入るなり、誰もが自分とこの家の関係を語り出す。 

「ここは中学受験の前に利先生から、うちの広間に来て勉強をしなさいと言われて通った記憶がありますよ。そのとき初めてカルピスをもらって飲みました。」 

「ここは『あんもがっこう(編み物学校)』やったとです。」 

ここに習字を習いに来た。という子連れのパパも懐かしそうに店内を見回していた。

「店を訪れた地域の人たちは、それぞれに当時の思い出を語ってくれます。」 

「もともとお父さんは学校の先生でお母さんは編み物や裁縫の先生をしていて、人が集る家だったようです。ですから、この家のそうした役割というか伝統を私たちで引き継いでいかなくてはと思い、西川さんにそのシカケづくりをお願いすることにしました」と、福岡から嫁いできて自身もこの家の一画でピアノ教室を営む古賀利一さんの奥さんである古賀やよいさんは話す。 

「とーちゃん(利さん)とかーちゃん(タミ江さん)の名前ばうまく使ってくれ」というご主人・利一さんの要望で、店名は『たみえる珈琲店』と貸本「利(とおる)文庫」に決まった。 

オープンに先立ち、地域の人たちを招待しての内覧会を開いたところ、「庭に咲いてたアジサイば持って来たよ」とか「うちのプラムばみんなで食べんね」と差し入れする人もあった。

オープン前の内覧会。近所の人からアジサイやプラムの差し入れが。

オープン翌日、最初に来てくれたのは、意外にも「おっちゃん」2名(この地方では年配の男性を「おっちゃん」女性を「おばしゃん」と呼ぶ)。一人は、野球中継が始るまで、もう一人は、家にいても食事の時に一緒になるだけであとはそれぞれの部屋でテレビを見ているだけという。いずれも数年前に会社をリタイアした人たち。 

3日目、小学3年生と4年生の女の子3人も学校から帰って着替えると来てくれた。うち二人は前々日も来てくれた。手には500円玉を握りしめて。何か自分で決めて買い物したくなる年齢でもある。以前は近所にはきまって駄菓子屋さんがあり、そこがいわば子ども達のサロンだった。3人はしばらく思い思いの絵本を手に取り読んでいたが、やがてひとりが読み聞かせを始めて、それぞれ別の本を他の二人に読み聞かせて帰っていった。 

もちろんお客さんはそうした“地域の人たち”ばかりではない。通勤途中で行も帰りも前を通って気になっていたという人が立ち寄ってお持ち帰りのコーヒーを買って行ったり、店内で中庭をゆっくり眺めながら「大木町にしてはこんな中庭、めずらしいですよね」と時間を過ごしていく人もあるという。

雨の日には風情いっぱいとなる中庭。

店内の本棚には、店主の西川さんがおよそ20数年にわたって読んだ本が並ぶ。「宝くじが当たったら『まちづくり図書館』を作りたいと読んできた本ばかりだ。「くっそ真面目な本ばっかりやね〜」と言って本に興味のない人から、丹念に背表紙を見て手に取って借りていく人までさまざま。 

「本の背表紙のタイトルがふと語りかけてくれる時があります」と、気長に読者を待つ本たち。本は1回期限無しで100円で貸し出し、返却時のコーヒーが100円引きになるというシステム。 

本棚に置かれた本のテーマは「こころ豊かな自分づくり・暮らしづくり・まちづくり」。 

「ここを自分のサードプレイスにして、それぞれにリフレッシュして帰っていってほしいですね」と静かに微笑む。店内にはリュートの音楽が静かに流れている。窓の外では、小さな蓑虫が細い糸を手繰りよせて登っている。 

自家焙煎たみえる珈琲店・貸本利文庫 
所在地:福岡県三潴郡大木町大字侍島275-1 
電 話:080−4283−5960
営業 :10:00〜18:00
定休日:月曜日

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