国産天然魚を「地魚地食」し、日本の漁業の創生を目指す―くら寿司の「国産天然魚エコシステム」とは

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私たちの身近な大手回転寿司チェーンである「くら寿司」。2023年4月から新シリーズ「くらの逸品シリーズ」を始めています。「国産天然魚」に着目し、日本の各地域で獲れた魚を、近くの加工場で加工し、その地域内の店舗で販売する「国産天然魚エコシステム」により「漁業創生」を目指すというくら寿司の取り組みを取材しました。

目次

地域で獲れた魚を地域で食べる、「国産天然魚エコシステム」とは

くら寿司は、これまでも「抗菌寿司カバー」をはじめとする安心・安全へのこだわりや店舗運営の効率化、エンターテイメント性を活かした話題づくりなどに取り組んできました。一方で、よりお客様に喜んでもらうためには、寿司ネタのバリエーションをより豊かにしていくことも重要と捉えているものの、現状、大手回転寿司チェーンでは主流となっている海外産の人気魚種に依存するスタイルでは困難だと言います。

そこで注目したのが「国産天然魚」です。くら寿司では、10年以上前から国産天然魚の商品化に力を入れています。国産天然魚は希少で美味しい魚です。ただしその分、形が不揃いであったり、加工が難しかったりという課題があります。また、ある地域で獲れた天然魚を当該エリアで加工するための拠点づくりの必要性や、地域にあるくら寿司のあまねく店舗に供給するためには大量の魚の確保が必要になるなど、天然魚の全国販売にはいくつもの関門が立ちはだかっていました。

そこで今回、くら寿司が始めた新しい取り組み「くらの逸品シリーズ」には「国産天然魚エコシステム」という、新たな流通の仕組みが導入されています。それは、地域で獲れた国産天然魚を、その地域の工場で加工し、その地域の店舗に配送し、地域のお客様に提供するというものです。こうすることで原材料となる魚の調達、商品供給の安定化をはかることができるのだそうです。

地域ごとの地魚を食べられるという魅力は、全国チェーンの寿司店の従来のオペレーションでは実現が難しく、その地域にあるご当地回転すし店が持っていたものでした。今回「国産天然魚エコシステム」の導入により、くら寿司は大手回転すしチェーンとしては初めて、それぞれの地域ごとに各地の国産天然魚(地魚)を食べられるお店となり、大手チェーンとご当地店の長所を併せ持つことになります。

「国産天然魚エコシステム」により、それぞれの地域で“地産地消”ならぬ“地魚地食(じざかなじしょく)”を進めることで、その地域の漁業従事者や加工を行う水産会社は水揚げから加工、店舗への配送がコンパクトに行なえるようになり、流通にかかるコストなどが削減できます。そして、お客さんにも地域の特色を活かした地魚のメニューを提供することで、その地域ごとの魅力を持った店舗づくりをしていきたいとしています。

「くらの逸品シリーズ」では、いずれも地域の漁師が自信を持って勧める地魚が提供される。

くら寿司の進める漁業創生の取り組み

くら寿司は、将来にわたって日本の魚が食べられるように、漁業従事者との共存共栄をはかる数多くの取り組みを推進してきました。2010年からは今回の「国産天然魚エコシステム」につながる「天然魚プロジェクト」を始めています。全国116か所の漁港・漁協との直接取引による新鮮な魚の確保をしてきたほか、2015年には定置網にかかった魚を、市場価値にかかわらず一括で買い受ける「一船買い」もスタート。獲れた魚にかかわらず、量に応じた値段で買い取ることで、漁業従事者の収入安定、人材確保への貢献をはかってきました。

「一船買い」で取引をしている漁師による漁の様子。

また、この一括で買い取るシステムは養殖業にも向けられます。2021年には漁業の持続可能な発展と魚の安定供給を目指して「KURAおさかなファーム」を設立。AIやICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を活かした「スマート養殖」を始め、ここでも提携した生産者からその全量を買い取るようにしています。先端技術による労働効率の改善や収入の安定化などを通じて、漁業の人手不足問題の解決や、地域の雇用創出にも貢献しています。

AI技術を活用するスマート養殖では、アプリを通じた遠隔による管理も可能。

なおソトコトオンラインでは昨年、漁業と食について、くら寿司が小学生を対象に行っている出張授業についても取材をしています。

寿司を通じて子供たちに海の今とこれからを伝える―くら寿司の小学校出張授業をレポート

くら寿司は、これらの取り組みの先に「日本の魅力的な魚を永続的に食べられる未来づくり」があるとしています。

「国産天然魚エコシステム」を構築する人たちの声

魚の“地魚地食”を進める生産者の方や、そういった方と連携するくら寿司の方は今回の取り組みについてどう考えているのか。それぞれにお話をいただきました。一人目は、高知県漁業協同組合 手結(てい)支所の支所長である中田和伸さんです。

ソトコト くら寿司が手がける「国産天然魚エコシステム」と「くらの逸品」について、生産者としての立場からお話いただけますか。

中田和伸さん(以下、中田) 私たちは漁協として、漁師さんから、おいしい魚を食べてもらいたいという想いとともに魚を受け取っています。くら寿司さんの取り組みからは、くら寿司さんも私たちと同じように、漁師さんの気持ちを同じ熱量で受け取ろうという気持ちが伝わってきます。漁師さんと、私たち漁協と、くら寿司さんが同じ熱量、同じ想いで魚に向き合っていると感じられるのがとてもうれしいですね。

くら寿司で地魚が提供されることで、たとえば漁師をやっているおじいさんがお孫さんとくら寿司へ行って、この魚は自分が獲ったものなのだと誇りを持って言えること、それって素晴らしいことだと思います。そういう未来を一緒につくっていけるのではないかと思って、くら寿司さんと取り組みを進めています。

その地域でしか食べられない地魚は、皆さんが思っている以上にたくさんあります。ただ、それを沿岸部に住んでいる人たちだけでなく、都市部の方にも同じクオリティで提供することは、私たち漁業従事者、関係者の力だけでは実現できないことでした。くら寿司さんとともに取り組むことによって、地魚、“素の魚”を多くの人に見てもらうことは漁業の未来にもつながることだと思います。

ソトコト この魚の地産地消とでもいうべき取り組みについて、漁師さんたちの反応はいかがでしょうか。

中田 皆さん、くら寿司がこの手結の海とそこで獲れる魚のことを、将来にわたって気にかけてくれていることを喜んでいます。なので、沖に行って、いい魚を獲ってくることで、その恩返しをするような気持ちで漁に出られていますね。

また、地魚を食べてもらえるという今回の取り組みは、漁協の職員にもいい影響を与えています。職員のなかには、包丁を持つのも初めての人もいるのですが、地域の海で獲れたものが地域に住んでいる人たちに届くということで、職員みんなのモチベーションがどんどんと高まっているのを感じます。自分たちのやっていることは、今この時だけでなく、遠い将来につながることなのだと実感することができて、今後10年、20年、30年と続く漁協のあり方に光がさしたというか、将来への期待、希望が見えてうれしいという気持ちです。

ソトコト 「くらの逸品」に地魚を提供するにあたり、加工場を改装したと聞きました。

中田 地魚を扱うのであれば、外部の業者に加工を頼むのではなく、できるだけ自分たちの手でやることが大事なのではないかと思ったんです。今回の改装で、新たに機材を導入したり、衛生管理をより徹底したりすることで、日々の自分たちの仕事も、どこかグレードが上がったように感じます。

また、今までは単純なフィレ加工(注:三枚おろし)しかやっていなかったのですが、今回、加工場を改装することでロイン加工(注:フィレを背と腹に分割)など、できる加工の幅が広がったり、加工ラインを見直すことで効率よく作業ができるようになりました。これによって、今後どういった形態の加工依頼があっても、「それはできません」ではなく「どうやってやりましょうか」と答えられるようになったと思います。これもまた職員の意識とモチベーションを高める結果につながったので、今回の取り組みにあたって改装してよかったと感じています。

くら寿司の「国産天然魚エコシステム」と連携することで、私たち手結の漁協の骨格を強くすることができました。この波を次の世代へ伝えることで、漁協や手結で働きたいとか、家族の方も「そこで働いてかっこいいね」と思ってもらえるようになるとか、みんながハッピーになって、漁業の担い手が増えることへの契機となることに大きく期待しています。

ソトコト 最後に「くらの逸品」へ地魚を提供することへの意気込みを聞かせてください。

中田 私たち漁協にしかできないことをアピールしたいですね。漁協だからできる強みの一番は「鮮度」だと思います。漁師さんたちから私たち漁協、そしてくら寿司さんを通じて、気持ちの乗った鮮度の魚が、必ず届くでしょう。

中田和伸さん。

続いて、バイヤーとして全国の漁協さんとコミュニケーションを取っている、くら寿司の大濱喬王さんにもお話をうかがいました。

ソトコト 「国産天然魚エコシステム」が目指すものについて、教えていただけますか。

大濱喬王さん(以下、大濱)  「国産天然魚エコシステム」の仕組みを拡大していくことで、各地の漁業者さまが水揚げする、美味しい国産天然魚を、より多くのお客さまに楽しんでいただけるようになること、それがこの取り組みの第一歩だと思っています。そして、地域で獲れた美味しい魚を食べることで、これまで漁業には関心がなかった方たちに、日本の漁業やそれが抱える課題に興味を持ってもらい、たとえば「漁師になろう」という方が増えることで、くら寿司が目指している「漁業創生」につなげていければと考えています。

ソトコト 国産天然魚をメニューとして提供できるようになるまで、苦労したポイントは何でしょうか。

大濱 まずは産地加工場の問題がありました。魚を地産地消するにあたって、これまでは魚の産地に、くら寿司で使用する形態、基準までに加工できる加工場はほとんどありませんでした。それを今回の「国産天然魚エコシステム」をつくるために、大阪にある自社加工センターでのノウハウを生かし、漁協さまや産地の加工会社さまとタックを組んで、加工できるようにしました。

国産天然魚は養殖のものなどと異なり、魚ごとに形が不揃いであったりするため加工が難しかったのですが、加工の体制を整備したことにより、店舗で均一の商品にできるように、たとえば皮が引きにくい魚はあらかじめ皮を引いておくとか、ロイン加工を済ませておくといった対応が可能になりました。

次に物流の問題がありました。既存の物流システムでは店舗までの搬送は難しいものがありました。そこで今回、産地の加工場からの直送や、少量かつ多品種であっても地域の店舗に配送できるように全国を22のグループに区分けし、そのなかで魚を獲り、加工し、提供するという新たな物流の流れを設計しました。

大濱喬王さん。

「国産天然魚エコシステム」の今後の展望

国産の地魚を地産地消(=地魚地食)し、漁業従事者や漁協と連携することで水産業の力を高め、同時に消費者においしいメニューを提供しつつ、漁業への興味関心を高め、最終的に「日本の漁業の創生」につなげたいとするくら寿司の「国産天然魚エコシステム」。

くら寿司は今後、この仕組みがさらに全国に広がり、より強固な体制づくりを進めることによって、毎週の地魚の提供回数や、一回あたりにより多くの魚種をお客さんに楽しんでもらえるようにしたいと言います。現在くら寿司で取り扱っている天然魚の魚種、約30種を約130種まで増やすことを目指すとしています。

さらに、今後、天然魚だけではなく、各地域の特色ある養殖魚についても、今回構築した仕組みを生かしながら、各地域で提供する構想もあるといい、取り扱う魚種の幅を広げ、「国産魚」としての仕入れを増やすことで、さらなる漁業創生につなげたいとしています。

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