2人に1人ががん、9人に1人が乳がんになるといわれる現代。がんが身近な病気になっているなかで注目されているのが、がん患者への「アピアランスサポート」です。これを行っているのがFWD生命保険株式会社(以下、『FWD生命』)やNPO法人全国福祉理美容師養成協会(以下、『NPOふくりび』)です。『FWD生命』の伏見あまねさん、乳がんの当事者でありタレントで元・SKE48メンバーの矢方美紀さん、『NPOふくりび』理事長の赤木勝幸さんにお話を伺いました。
それぞれのタイミングで「がん」や「アピアランス」に触れる。
ソトコト アピアランスとは「外見」や「容貌」を意味する言葉で、アピアランスサポートとは、がんやがん治療の副作用によって髪などの見た目が変わることへの支援のことと認識しています。この活動をされているみなさんの経歴について教えてください。
伏見あまねさん(以下、伏見) 1996年に設立された『FWD生命』で広報・CSRを担当しています。『FWD生命』ではCSR活動のことを「コミュニティケア」と呼んでおり、がん保険を提供している会社として、『NPOふくりび』、矢方美紀さんと乳がん患者さんのアピアランスサポートにまつわる活動をしてきました。
矢方美紀さん(以下、矢方) 以前「SKE48」に7年半所属し、「チームS」のリーダーを務めていました。2018年4月、25歳のときにセルフチェックを機にステージ2Bの乳がんだと分かり、左乳房全摘出・リンパ節切除の手術を受けました。手術から5年経ちましたが、治療はあと5年残っている状況です。現在は声優などのお仕事をしています。
赤木勝幸さん(以下、赤木) 私は国際NGOでのカットボランティアの体験をきっかけに福祉理美容を始め、「誰もがその人らしく美しく過ごせる社会の実現」を目指し、2007年に『NPOふくりび』を立ち上げました。高齢者・障害者などの介護施設・自宅への訪問理美容をはじめ、がん患者・脱毛症患者向け医療用ウィッグの製造・販売、『アピアランスサポートセンターあいち』(愛知県)、『アピアランスサポートセンターTOKYO』(東京都)の運営をしています。
病気が見つかった方や闘病中の方にアプローチすることは大切。
ソトコト お三方はどのように出会われたのでしょうか。
矢方 私は2018年5月に治療を始め、6月頃に治療による脱毛とウィッグのことで悩み始めたのですが、当時はアピアランスサポートのことを知らなかったんです。そんな頃、知人から『NPOふくりび』の存在を教えてもらいました。赤木さんに初めて出会った頃は、当時の自分の頭を誰かに見られることに抵抗があって、それが表情などに出てしまっていたと思います。
赤木 矢方さんからご連絡をいただいて『アピアランスサポートセンターあいち』にお越しいただき、私がサポートを担当しました。その後、当団体のウィッグのイメージモデルになっていただき、共に啓発活動もしています。『FWD生命』とは、伏見さんがご連絡をくださってつながりましたね。
伏見 弊社のCSRとして、がんに関する活動を展開していたとき、『NPOふくりび』が東京に拠点をつくるためのクラウドファンディングをしていらっしゃって知りました。恥ずかしながらそのときアピアランスサポートについて初めて知り、強い関心をもちまして、世の中に広く伝えたいと思い、ご連絡しました。早期発見なども大切なことですが、がんが見つかった方や闘病中の方にアプローチすることも大切ですよね。
赤木 我々は愛知県を中心に活動していたのですが、東京でのニーズを強く感じ、2018年に拠点となる『アピアランスサポートセンターTOKYO』をつくりました。愛知県内だけだと発信が難しかったり、企業さんと出合うことも容易ではなかったりしていたので、『FWD生命』からご支援をいただいて、支援が必要な方への情報発信などで協業させていただき、活動が前に進んだと感じています。
アピアランスサポートのおかげで生活の質が改善され、前向きになった。
ソトコト 具体的にどのような活動をされてきたのですか?
伏見 主に「情報発信」です。2019年に「がんと共に生きるためのアピアランスセミナー」を開催し、矢方さん、『NPOふくりび』にご登壇いただきました。抗がん剤の副作用による脱毛やむくみなどのアピアランスの悩みについて矢方さんからお話しいただき、『NPOふくりび』にはどのようなサポートをされたかについて説明していただきました。
矢方 私は脱毛が始まってから、最初は一般的なファッションウィッグを使用していたのですが、頭皮にダメージが出たり、自毛と人工毛が絡まったり、洗った後に乾かすお手入れが大変だったりしてストレスを感じていました。
でも、『NPOふくりび』の人毛100パーセントの医療用ウィッグをつけたとき、その軽さに驚いたんです。ウィッグの正しい洗い方、ケアの仕方を教えていただいたら、お手入れも簡単でした。
ソトコト そうだったのですね。良いアイテムや相談先があると心強いですね。
矢方 はい。それまで容姿に自信がなかったのですが、サポートしていただいたおかげで生活の質が改善され、前向きになれ、「自分の経験を発信していこう」とまで思えました。アピアランスサポートは、患者本人の負担軽減はもちろんですが、その家族や友人、周囲にいる人の病気への理解にもつながると感じます。
赤木 例えばがん患者の奥さまの髪の毛が抜けて、旦那さまのほうがつらさを感じていることもありますし、周囲の人が不安になっていることもありますので、周囲にいる人を支えるのも大切ですね。
伏見 2020年のコロナ禍以降は、乳がん月間である10月にオンライントークセッションを開催したり、アピアランスサポートの動画制作を支援させていただいたりしました。
医療用ウィッグを乳がん治療中の患者さんに抽選でプレゼント。
ソトコト 情報発信のほかに、取り組まれていることはありますか。
伏見 乳がん治療中の患者さんに抽選で『NPOふくりび』が医療用ウィッグを寄贈していますが、これを支援しています。ウィッグ本体に加え、カットや自宅でのメンテナンスセット、メンテナンストリートメントもすべて含まれています。
赤木 プレゼントは「セミオーダーふくりび医療用ウィッグ」、自分や家族、友人の髪でつくるフルオーダータイプのウィッグなど、4種類から選んでいただいています。どれも人毛100パーセントです。
伏見 患者さんは治療費がかかるので、「医療用ウィッグまではなかなか手が出ない」という方もいらっしゃると伺っており、そのような方のサポートができることをうれしく思っています。
赤木 若い世代からのお申し込みが多いんですよね。値段がそれなりにするものなので、助けになっていると思います。
アピアランスサポートは、関係性づくりのきっかけになりやすい。
ソトコト 情報発信やウィッグ寄贈の取り組みに、どのような反響が寄せられていますか。
矢方 トークセッションの参加者のなかには、同じように治療中の方が多く、いろいろなお悩みが寄せられ、発信することの重要性を感じました。また、イベントや記者会見のあとに周囲で「ニュースになっていたね」と反応がありました。がん患者さんはもちろんのこと、当事者ではない方の目に触れることも大切だと思っています。
赤木 元気な矢方さんを見て、励まされた方がいらっしゃるでしょうね。私たちだけですとサポートできる人の数は限られるのですが、『FWD生命』からのサポートで、より多くの方に情報をお届けできています。
伏見 おかげさまで以前に比べると、アピアランスサポートが一般の方に少しずつ浸透してきていると思います。
ソトコト 今後のご予定やご展望について教えてください。
矢方 最近、親しい人が乳がんを患った際、「発信してくれてありがとう。本を出していたり情報発信したりしているのを知っていたから、自分が治療することになったとき過剰には落ち込まなかった」と言われたんです。今後も自分にできる情報発信を続けていきたいです。
赤木 アピアランスサポートには、精神的につらい時期にお会いし、そのあともメンテナンスなどがあるため継続してお付き合いができるという特徴もあります。そこからさらに、さまざまなサポートややりとりが始まる可能性があるんです。関係性づくりのきっかけになりやすい大切なサポートなので、継続していきたいです。
伏見 がん保険を提供する保険会社として今後もアピアランスサポートの支援を続けたいですし、患者さんの思いや、周囲に伝えたいことなども届けるような活動ができたらと考えています。治療中のアピアランスの変化について話すのは勇気が要ると思いますが、声をあげていけるような社会になることを望んでいます。
ソトコト それぞれのお立場で必要な取り組みをしていらっしゃると感じました。今後のご活動も応援しています。ありがとうございました。
伏見あまね(ふしみ・あまね)
FWD生命保険株式会社 ブランド&マーケティング部 広報・CSR担当
2011年、富士生命保険株式会社(現・FWD生命)に入社。大手保険代理店キーアカウントを経て、2017年よりCSR・広報を担当。
矢方美紀(やかた・みき)
タレント
大分県出身。元・SKE48メンバー。現在は声優・タレントとして活動する傍、「自身の身体を知る」ことの重要性を伝え、がんになっても夢を諦めない、前向きに生きている姿を発信している。
赤木勝幸(あかぎ・かつゆき)
NPO法人全国福祉理美容師養成協会(ふくりび)理事長
27歳で愛知県日進市にて独立開業。開業時から近隣介護施設などで訪問理美容活動を開始。2008年に社会貢献支援財団社 会貢献賞受賞。現在は研修・講習などの講師として活動中。
text by Yoshino Kokubo
photographs by Takeshi Konishi、FWD生命、NPOふくりび